岐阜県で進学塾「東進ゼミナール」を展開する株式会社東進(岐阜県美濃加茂市、飯田陸三社長)が、新たな発想の〝生徒紹介ツール〟として、『こうかんドリル』を電通中部支社と開発した。これまでの紹介ツールとは一線を画すこの『こうかんドリル』。その開発に至った経緯と狙いについて、東進の飯田裕紀取締役と、企画・制作を担当した、株式会社電通中部支社の田中陽樹・チーフ・アナリストと川瀬恭平・コミュニケーション・デザイナー、そしてアート・ディレクターの小島梢氏にお話を伺った。
『こうかんドリル』って何?
――『こうかんドリル』を作るきっかけはなんだったんでしょうか?
飯田裕紀氏
飯田 以前から、東進ゼミナールの紹介キャンペーンを充実させたいと考えていました。その上で、弊社の理念である「成長と感動」をどのような形で表現するか、ということを電通さんと一緒に考えることから始まりました。
――最初からこの形になったのですか?
川瀬恭平氏
川瀬 アイデアの発想は小島から出ました。ただ、プロモーションイベントをするのか、インセンティブキャンペーンにするのか、ツールにするのかを三人で話し合いました。
田中陽樹氏
田中 最初は「紹介ツールを作りたい」というお話だったのですが、以前、塾生を増やす取り組みに、図書カードを配るといったインセンティブキャンペーンをされたことがあったそうです。ただ、「これだと他の塾との差がつけづらいし、東進ゼミナールらしさを出せるものはないか」と相談がありました。そこで、小島に相談しようと思い、翌週に打ち合わせ日時を設定したのですが、打ち合わせの日には原型となるモックを作ってきました(笑)。
――『こうかんドリル』は、塾だからこそ生まれた発想なんですか?
小島梢氏
小島 そうですね。塾ならではのツールというのは、今まで他の塾でも見たことがなかったので、「塾でこういうことができたらおもしろいな」ということで提案させていただきました。
――『こうかんドリル』はどんなしくみなのでしょうか?
小島 小学生がやっているような交換日記をベースにしたものです。塾や学校では、先生から一方的に問題が出されて、それを解く、という関係性で成り立っている訳ですが、東進ゼミナールさんの理念に照らすと、もっとお互いに問題を作って出し合う、というところから入ってもいいのかなと考えました。その上で、『こうかんドリル』に問題を自分たちが作って、それを友達や家族や先生に解いてもらう、というしくみにしました。生徒が、問題を作る側に回るのもおもしろいな、というアイデアと重なったという感じです。
――赤鉛筆はどのような用途で入っているんですか?
小島 採点用です。自分たちで採点をしましょうと伝えています。採点の楽しみもあると思います。実際、赤字が秀逸だった子もいたり、先生ぶって書いている子もいました(笑)。
――どんな問題が出てくるか想定していましたか?
小島 本当に難しい問題を考えてくれる子もいましたし、逆にとんち的な発想で考えてくれる子もいるんじゃないかと想定していました。また、ドリルを真っ白にしている理由にも繋がるんですが、アート的な視点で、絵だけを描いている子がいてもいいじゃないかとか、デコレーションに凝ってくれる子がいたらおもしろいね、とか社内で話をしていました。
生まれた繋がり。秀逸なドリルには特別賞も授与
こうかんドリルの使い方を解説するポスター
――『こうかんドリル』によって、どのような繋がりが生まれましたか?
小島 交換する相手は自由です。幅広い年齢層に使ってもらえるものとして提供しています。
飯田 「塾内に友達ができた!」と言う子もいましたし、親とやっている子が実は多くて、親と問題を出し合うなかで、親子関係のコミュニケーションも生まれています。
田中 生徒と先生のコミュニケーション作りのきっかけにもなっているようです。塾長もされていて、塾長と話すきっかけって、普段はそんなにないと思うんですが、そういう新たなコミュニケーション手段にもなっていると思います。
――『こうかんドリル』がどのように生徒の紹介に繋がるのでしょうか?
飯田 学校の友達ともやってもらっているので、そこで、東進ゼミナールってそんなおもしろいことやっているんだ、という口コミに繋がる。そうすると「もっとやりたい!」という友達も出てきて、「それなら東進ゼミナールで一緒にやろうよ!」という流れが生まれています。
――すでにそれで入塾した生徒さんもいるんですか?
飯田 試用版でまだ1周りしかしていませんが、それがきっかけで入塾してくれた生徒もいます。
――秀逸な問題は表彰もするそうですね。どのような賞を授与されるのですか?
こうかんドリルには、子どもたちの個性が発揮された様々な問題が作られている
飯田 一回目は昨年7月に配布をはじめ、締切の10月までに、約1200冊の『こうかんドリル』が集まりました。その中から、「まじめで賞」や「デコしたで賞」など、ユニークなものも含めて複数の賞を授与しようと考えています。
小島 普段、学校や勉強の場で評価されない点もちゃんと評価されるんだよ、評価されないと思っていたけど、こんなことも世の中は評価してくれるんだ、と思ってもらえる機会になるのが一番大事だと思っています。
自塾に留まらず、他塾や異業種にも
――東進ゼミナール内に留めておくにはもったいないですね。w
飯田 私たちもいろいろなところで活用していただきたいですし、すでに問い合わせをいただいているところもあります。
――この『こうかんドリル』をもとに、今後どのようなプロモーションを展開されていくのでしょうか?
こうかんドリルには、子どもたちの個性が発揮された様々な問題が作られている
飯田 ひとつは書籍化です。あとは、『こうかんドリル』をぜひ全国の塾でも使っていただきたいです。いずれは、日本国内のみならず、世界中でコンテストを開催したいですね。
カリキュラムに沿った問題を解けるようになることも大事ですが、教科書に載っていない問題を自分でつくり、自分たちで答えを導き出していける子供を作っていきたい。『こうかんドリル』がその起点となって、塾で学ぶ子供達にとって新しい習慣になってくれたら嬉しいですね。