ホンダの米現地法人アメリカン・ホンダモーターは8月4日、スポーツカーの新型「NSX」試作車によるデモ走行を、米オハイオ州で開催されたインディカーシリーズ第14戦で公開した。新型NSXは、直噴V型6気筒エンジンを車両中心に配置し、新型ハイブリッドシステムを搭載。エンジンと高効率モーターを内蔵したデュアル・クラッチ・トランスミッションと、左右の前輪を独立した2つのモーターで駆動する電動式の四輪駆動システムで、高い走行性能と燃費を両立させた。2015年から北米を皮切りに世界で販売する予定という。
教育・出版大手の学研ホールディングス(HD、東京、宮原博昭社長)は13日、福岡県内を中心に北部九州などで小中高校生向けの学習塾を展開する全教研(福岡市、中垣一明社長)を買収すると発表した。契約締結は14日で、学研HDの子会社の学研塾ホールディングス(東京)が経営陣などが持つ株式を30億円で買い取り、全株式を取得する。
買収後も全教研の社名は変わらず、中垣一明社長をはじめとする経営陣は続投する。全教研は、1977年に設立され、福岡証券取引所に上場していたが、2009年に経営陣による自社買収(MBO)を実施し上場廃止していた。2013年2月期の売上高は45億1300万円で、純利益は1億7300万円。
去る5月16日、東進衛星予備校全国大会の「第20回記念大会」にて新たな決意を表明された、永瀬昭幸社長に、東進衛星予備校をはじめ、東進ハイスクール、四谷大塚、東進こども英語塾、イトマンスイミングスクールなど、さまざまな角度から教育に専念してきた観点から、さらに深く話を伺った。
―――ナガセグループ全体の教育目標=企業目標である「独立自尊の社会・世界に貢献する人財を育成する」 具体的にはどんな取り組みをされているのですか。
「わたしたちは、『独立自尊の社会・世界に貢献する人財を育成する』ことを教育目標としておりますが、独立自尊とは、自らの人生について信念を持ち、プライドにかけて決めたことを完遂することであると考えています。具体的な生徒指導では、まず生徒自身が、何をどのように勉強するのか自分の頭で考え、計画を立てる。もちろん、我々は生徒が考えたり計画するための材料はたっぷり与えますし、いつまでにそれをやるのか締切を決めて、ちゃんとやるように励ます。生徒の考えや計画が正しかったかどうかは、模擬試験の成績などから、生徒が自分で考えて、問題があれば計画を変更します。そうして自分の責任で、自ら求めるという職場をつくることで、独立自尊の精神が育まれるわけです」
―――”心の教育”に取り組まれて5年目になります。
「これまで長く教育に携わってきてわかってきたのですが、「受験に王道はない」という言葉の通り、志望校に合格しようと思ったら、徹底的に努力をするしかない。だからといって、誰かに強制されて勉強をしても学習効果は低く、目の前の受験に勝てたとしても将来につながりません。一方、自ら求め、自ら考えて勉強すれば取り組みの成果は飛躍的に高まります。自ら求め、自ら考え、自ら判断・実行する生徒を育てるためには、生徒の心をしっかりと鍛えていく必要があると考え、そういう方向でやってきたことが、ここまで成長できた要因だろうと考えています。
先日、雑誌で東大合格者のインタビュー記事を見ましたが、東進出身の生徒は皆、しっかりと未来を見据えて、自らの志や夢を語っていました。あれには私も嬉しくなりました。夢は、努力をするための原動力だと思います。しっかりとした心が備わっていれば努力を継続できるし、私たちの取り組んでいる”心の教育”は、感度のいい子ほど影響を受けていきますから、まずは感度の良い生徒を自ら求める状態に変えていく。そのうえでだんだん”心の教育”が多くの生徒に浸透していけばいいなと思っています」
―――四谷大塚の予習シリーズが今年改訂されました。大きなポイントとしてどんなことがあげられるでしょう。
「生徒に大きな夢、高い志を持たせ、自ら求める心、自ら考えて勉強に取り組む習慣を身につけさせるには、高校3年間だけでは不十分で、小学校の頃から取り組む必要があると考えています。たとえば、私は、人に教わったことだけを復習して、解答のパターンを丸暗記するだけでは、将来自らの頭で考えて社会で活躍できる人間にはならないだろうと思う。それだけではなく、自分で一生懸命予習して、自分の頭で考えて問題を解いていくという訓練も大切だと思います。もちろん、成績がよくなかった単元の欠点を是正する必要もありますから、予習至上主義でも、復習至上主義でもよくないと考えています。今回の予習シリーズ改訂は、どちらもバランスよくやって、しっかりわかった上で次の単元に入っていくといったカルチャーに切り替えようという試みなんですね。
まず、その5年生の3月までに受験の課程を全部修了させる。そして、6年生の1年間をかけて、それに対する応用力をつけながら志望校対策をしっかりする。基本的には”スモールステップ・パーフェクトマスター”の考え方です。自分にぴったりのレベルからステップアップし、習ったことを確実にマスターする。けれども、勉強というのは面白いもので、はじめて学んだときは多少わからなくても、先の段階へ行って振り返ってみると、こういうことだったのかと理解することもけっこう多い。広い立場からものを見てみると、かえってわかりやすいこともありますから、基礎基本を徹底的に身につけながらも、応用力の高いことも一緒にやっていきます。同時に、毎週行う〝週テスト〞で、授業で学んだ内容を復習する。この取り組みは、どんどん底力が付いてくると思いますよ」
―――文科省を中心に教育再生実行会議が立ち上がり、入試制度などでの大学改革も進んでいくかと思います。そうなると教育の仕方も大きく変わっていくのではないでしょうか。
「まず大切なことは、”このような人間を育てるんだ”という大きなビジョンを描くことだと思います。そのうえで制度の変化に対しては、積極的に手を打っていきたいと思います。こども英語塾ではすでに、小学生の段階から他の教科も 全部英語で教えることもしています。英語は、一つの科目として学ぶだけではなく、数学や理科や社会も英語で学ぶことで、本当に使える英語になっていくと思っています。
東進USAオンライン講座にしても、時差による弊害を取り払った仕組みを作り上げましたので、全国の塾のみなさんにも提供させていただきたいと思っています。「何を使って英会話を勉強するか」と考えるとき、金額が安いかどうかで決めるのは、私は邪道だと思う んです。言葉というのはカルチャーですから、アメリカのカルチャーを学びたいのであれば、アメリカのネイティブと話をすべき。旅 行で話が通じるということだけで満足されるのであればそれでけっこうですが、ビジネスでは一切通用しませんから。ビジネスで、億 単位のお金を動かすような仕事をするつもりなら、アメリカのカルチャーと密接に関わらないと無理だと思います。
日本の将来を考えると、世界で活躍できるような人財を育成していかないと、もうこの国は立ち行かない。だから、そうした教育を、公立学校がやるのか、大学がやるのか、民間教育者がやるのか、などという議論は不要だと思います。どんな人財を育てていくのか、しっかりとした目標を掲げ、それを教育に携わる全ての人間だけでなく、実業界も巻き込んで、日本全体で取り組んでいく。その中でしっかりとした人財を育成できるところが、日本国民が頼りとする教育機関になっていくのだと思います。私は、全国の塾の先生方と協力しながら、何としてもこの大仕事をやり遂げたいと思っています」
―――6月2日に、小学1年生から6年生の全学年対象の全国統一小学生テストがありましたが、こちらの反応はいかがでしたか。
「全国統一小学生テストは、受験者数は毎回10万人を突破しています。また、今年から全国統一中学生テストもスタートし、今回は11 月4日(月)に実施します。これで、全国統一高校生テストと合わせて、小中高の全国統一テストが揃うことになります。
全国のたくさんの塾の先生方に趣旨に賛同いただき参加をしていただいており ます。全国の才能ある生徒 諸君を発掘し、年月をかけて育てていく。日本の将来を担う人財を発掘・育成することにつながる取り組みであると確信していますので、これからも一生懸命取り組んでいきます」
―――今後の目標はなんでしょう。
「今年度、東大現役合格者は600名になり、現役合格者の3・3人に1人が東進生です。難関大学を中心に、東進生の占めるシェアが高まってきました。将来の日本を引っぱっていくような、たくさんのリーダー候補生をお預かりしているのですから、日本の未来を明るいものにするために、教育に携わる人間の役割、責任は極めて大きいと考えています。
国力とは、国民一人ひとりの人間力の総和です。私は、生徒の人間力を高めることで、日本の将来を拓いていくことが、教育機関としての使命であると考えています。
私どもだけではできないことであっても、日本全国の先生方と力を合わせれば、日本全体を巻き込んだ教育運動を起こすことができると確信しています。全国のたくさんの先生方に支えられ、毎年開催している東進衛星予備校全国大会も今年で20回の節目を迎えることができました。これからも、先生方にご指導頂きながら、お預かりした生徒全員を伸ばすシステムを作りあげられるよう一生懸命頑張ってまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます」
『月刊私塾界』2013年8月号掲載
剣道があった。音楽があった。
歴史があった。
親友が、悪友が、愛する人がいた。
それらすべてが、
彼の信念を創り上げている。
栄光も挫折も経験し、
夢と希望を乗せたバイクが西へと走る。
「さよなら、東京」―。6年前の1月、犬走智英(当時24)は恋人を背中に、箱根峠をひたすら西へ、西へ。二人を乗せたバイクが目指すは、犬走の故郷・佐賀だ。寒風の中、体は冷え切っていたが、心は夢と希望で熱く燃えたぎっていた。
さらに遡ること、幼少期。犬走は、あるガキ大将と仲良くなった。偶然にも、二人とも剣道少年。「コイツには負けねー!」とライバル心に燃えて練習を重ね、佐賀県武雄市の大会では優勝も飾った。
人としての礼儀。競い合い、高め合う喜び。剣道は、塾人・犬走としての原点を叩きこんでくれた存在だ。
中学では定期テスト学年1位だったが、転機が訪れたのは高校時代。地元の進学校へ進んでからだ。「井の中の蛙」という言葉の意味を思い知らされ、あっという間にドロップアウト。髪を染め、悪友に借りたバイクを乗り回すようになる。
ただ、素行は荒れていたが、同時に「なぜオレはこうなった」「教育って何なんだ」という想いも常に抱いていた。仲間とたむろしては、将来を語り合う。「オレは建築士を目指すぞ。犬走、お前の夢は何だ?」とガキ大将。「そうだな、オレは……教育の道に進みたい」。
田舎町の不良少年たちにとって、東京は憧れの街だ。そこに行けば、何でも叶う気がするビッグタウン。犬走にとってもそうだった。なんとか合格を勝ち取るための効率的なトレーニングをし明治大学へ進むが、「デカいことをやりたい」という気持ちと、反逆精神は持ち続けていた。自分の感情を昇華するため、社会の矛盾を痛烈に批判するHip-Hopの音楽制作にハマり、Lyric(歌詞)をノートに書き綴った。恋人と出会ったのもこの頃だ。そして、当時の音楽仲間と制作した楽曲は、スノーボードDVDのBGMとして採用され、コンピレーションアルバムが全国のスポーツショップでも販売された。
その後は大手進学塾に入社し、そこで頭角を現す。社長の信任も厚く、起業家マインドの薫陶も受けた。やりがいを感じ、昼夜を問わず働いていたが、好事魔多し。自らを追い込みすぎ、心と体が蝕まれていく。「オレがやらなきゃ」という義務感だけが自分を動かしていたのだ。胃痛だと思って診察を受けた結果は「抑鬱状態」、即ドクターストップ。休職に追い込まれ、虚無な日々が過ぎて行った。
ある日、見かねた恋人は「カフェでも行ってノンビリしたら?」と勧めてくれた。ココアをすすりながら「教育とは」という想いが頭をかすめていく。「オレをはじめ、田舎で育った人の多くは『競争』を楽しむことを知らない。そんな育ち方をして、厳しい実社会に放り込まれたらどうなる。オレみたいに壊れちまうんじゃないのか」。「練習して、できるようになる、ライバルに勝てる、そうすれば嬉しい。実にシンプルじゃないか。勉強も仕事もスポーツと一緒だ」。「自分の塾を創りたい。そうだな、名前は何にしよう?」……かつて綴ったLyricノートをパラパラめくり、見つけた言葉がこれだ。『BRAIN STORMING』―「いいな、これ。『ブレスト』か。批判せず、アイデアを出し合う塾。『自分がやらねば』に固執していたオレにピッタリだ。バランスを大切にし、もっと頭を柔らかく、いろんな人にアドバイスをもらいながら、愛される塾。スポーツのように勉強に取り組む塾。競争を楽しめて、実社会を強く生きる子どもを育てる塾。オレはそれを創りたい」。
社長に最後の挨拶をすると、力強い握手で送り出してくれた。恋人に佐賀へ帰る決意を伝えると、涙を浮かべこう言った。「私の夢は、あなたの夢を支えること」。もう迷うことは何もない。二人はバイクにまたがり、佐賀へとエンジンをうならせる。
もちろん、犬走は当時想像できなかったはずだ。やがてその塾は、人口わずか9000人の小さな町で、100名ほどの生徒が通うナンバーワン塾となることも。かつて夢を語り合ったガキ大将は一級建築士となり、新しい教室を設計してくれることも。恋人は妻となり、愛する子が生まれることも。「さよなら、東京オレはオマエに負けねェーからなー!」―。バイクはいま、関門海峡を越えた。光が見えた気がした。(敬称略)
犬走智英 TOMOHIDE INUBASHIRI
1982年、佐賀県出身。生徒の約5割が学年10位以内という地域きっての定員制進学塾・ブレストを運営。剣道や挫折の経験を通じて学んだ「勉強はスポーツだ!」をスローガンにし、また「競争を楽しみ、実社会で折れない子どもを育てる」ことをミッションに掲げている。授業はライブに加え、映像やITを駆使して運営。武雄市の公立中に英語の外部講師として招かれるなど、教育者としての評価も高い。
●WEBサイト
http://www.buresuto.com/
●ブログ「地域NO.1 進学塾ブレストブログ」
http://ameblo.jp/inu-the-husky0802/
『月刊私塾界』2013年8月号掲載
ときに厳しく、ときに優しく。確固たる信念と深い愛情で、消防隊員に新たなる体育指導を実践してきた鎌田氏。畑は違えど、同じ教育者として学ぶべきところは多い。鎌田氏はどんな想いで教育に取り組んでいるのか伺った。
私は学生時代を通じて五十種類ほどのアルバイトをさせていただきましたが、その一つとして家庭教師も経験しました。体育教師になりたかったので、先生というものはどんなものかを味わってみたかったのです。母校の中学の先生と連携し、中学生の九教科を、三年間、無償で担当しました。いま思えばまさに塾ですが、集まってきたのはやんちゃな子たちばかり。本当に毎回が真剣勝負でしたね。
その経験を通じて感じたのは、たとえどんなにやんちゃでも、子どもはみんな優れた能力を持った天才だということ。こちらが本気で向き合うと、子どもは一日で表情、意識、行動が変わるんです。どうやって彼らのやる気の導火線に火をつけて、本気にさせるか。それが私の楽しみでした。中学の先生からも「あの子の振る舞いはそっちではどうだ?」などと聞かれることも多く、塾と学校が協力しあう意味の大きさも実感しています。
私が子どもたちを指導するうえで意識していたのは、「知識のあるものがないものに教える」というスタンスではなく、見守るようなイメージ。大きな枠のルールを設け、そのなかで自由に学べるようにしていました。とかく狭い枠に閉じ込めて教育をしがちだと思うのですが、先生が大きな信念と覚悟を持ちつつ、子どもたちを信じてあげることも大切なのではないでしょうか。そうした先生の愛情は子どもたちにも伝わり、きっと大きく成長してくれることと思います。
私が設立したタフ・ジャパンでは、一般の方に向けて「防災道徳」という教育をおこなっています。なぜ防災だけではなく、道徳も合わせて教育するのか。それは道徳心が養われてこそ、はじめて防災力が高まるからです。阪神淡路大震災が起きたとき、震源地に近い淡路島の北淡町はなぜか生存者が多かった。というのもお互いの寝室も分かり合っていたので、地域の人が協力してがれきの下からいち早く救出することができたのです。でも、一体なぜ北淡町だけがそういう意識が持てたのだろう。長年疑問に思っていたのですが、二年前へ現地に行ってみると「道徳教育推進の町」という看板をあちこちでみかけました。「そう だったのか…」。私は防災と道徳を一緒に教育することで、日本の人間関係力を土台から強くしたい。そんなミッションを掲げて、防災道徳の指導と普及に努めています。
また、東日本大震災ではたくさんの避難所が設けられましたが、ある避難所では「ここで暮らす人はみんな家族です。それぞれ自分の役割を見つけ、積極的に行動しましょう」と呼びかけていました。すると年齢も職業もバラバラなのに、まるで家族のような絆が生まれた。その避難所で暮らしていた人たちは、定期的に同窓会を開いているといいます。ともに支え合うことで生まれる絆を、私は教育に盛り込んで多くの人に伝えていきたいと思っています。
そうした想いを通じて立ち上げたのが、帰宅困難を実際に体験してもらう「災強!霞が関防災キャンプ」です。このプログラムでは明かりがない、トイレがないといった不自由な状況を作り出し、見ず知らずの人と一晩をともに過ごしてもらいます。リアルな帰宅困難を体験してもらうことで、多くの気づきをもたらし、行動をおこしてもらいたいのです。参加者は明かりがない不便さを感じれば携帯ライトを買いにいきますし、水がない恐怖を感じれば備蓄水を用意するようになります。また、わざと弁当が一つ足りないようにしておき、その状況をどうやって初対面の人と切り抜けるか、といったことも体験してもらいます。奪い合いが起きてはとても朝までもちません。ほかにもいろいろな仕掛けを作ることで道徳心を養い、防災に対する意識の向上を図っています。
タフ・ジャパンでは、一般の方に防災道徳を教育するだけではなく、全国の消防隊員に「消防體育」というものを指導しています。これは学校体育とは違い、消防隊員のためだけにおこなう職業体育です。私がこの消防體育を指導する上で意識しているのは、メンタル、フィジカルの鍛錬だけではなく、勇気を育むこと。どんなに屈強な体でも、勇気がなければ消防隊員としては活躍できません。たとえば水泳を指導する場合でも、ただ泳ぐことだけをテーマにするのではなく、実際に消防服に身を包んだときに人を抱えて救出することができるのか、といった実践的なトレーニングをおこないます。そうした訓練を積むことで、いざというときでもひるむことなく、勇気が奮い出るようにしているのです。
また、人間が一番成長するのは、悔しさや苦しさで奥歯を噛む時。隊員たちを極限まで追い込むことで、いわゆる「火事場の馬鹿力」を意図的に引き出すようにもしています。二人一組でバディを組ませ、一人には腕立て伏せを、もう一人には実施者を背中から押さえつけるようにさせます。そして背中を押さえる者には、同時に相手が奮い立つような言葉を浴びせかけさせるのです。腕立て伏せをしている者は、とにかく重いし、苦しい。そんな辛い状況を与えると、バディに負けじと自分でも驚くほどの力を発揮し、達成感を味わうことができるのです。この際に大切なのが「なぜそれをするのか」、その意図をきちんと説明すること。トレーニングの意味を理解することで、隊員たちはより目的意識を持って訓練に臨むことができます。負荷の与え方は上手にコントロールする必要がありますが、一度限界を突破させることは、人を成長させるうえでとても重要だと思っています。
消防體育においては、場合によっては何百人という隊員を一度に担当します。そんなときに私が気をつけているのが、一対一の指導をすることです。初めての講義では必ず時間をかけて一人ずつ握手を交わし、しっかりとコミュニケーションを取ります。一対一の関係を築くことは教育の原点だと思いますが、そうやって心の距離を縮めたら、今度はスクリーンを使って家族・恩師の紹介をします。すると、みんな必ず私に興味を持ってくれるのです。それから講義に入っていくのですが、講義では隊員から質問を集め、それに対して答えていくという手法を取っています。つまり毎回その場で組み立てる、オンリーワンのプログラムということ。心の距離が遠いまま、決まり切ったプログラムをおこなうのでは、隊員も集中力を維持し続けられません。いずれにしても、教育者はいかに一対一の関係を築き、全力で関わっていくか。それいかんによって、本人の持つ力を充分に引き出せるかどうかが変わってくると思います。
また、私はさまざまな方法で体を鍛えてきましたが、強い肉体を得るには筋力トレーニングだけではなくストレッチをおこなうことも重要です。筋力は鍛えれば鍛えるほど強くなりますが、それだけではダメなんです。ストレッチを取り入れて柔軟性を磨いてこそ、強靱な体を得ることができる。これは、教育にも同じことがいえると思います。叱るだけでは子どもは萎縮してしまいますし、ほめるだけではたくましくはなれません。さじ加減が難しくはありますが、両方をうまく使い分けることによって、しなやかで強い子どもを育くめると思います。
鎌田修広(かまたのぶひろ)
日本体育大学社会体育学科卒業。在学中にトライアスロン部を創設し、初代主将を務める。平成4年、就職した紳士服チェーンでトップセールスマンとなる。翌年、消防職員となった友人の薦めで横浜市消防局へ入局。消防訓練センターの体育訓練担当教官となり、3千人を超える職員の新たな体育指導法を確立。平成23年退職し、防災研修や人材育成事業をおこなう(株)タフ・ジャパンを設立、代表取締役となる。著書に『生涯現役消防筋肉』。
http://www.tough-japan.com/
『月刊私塾界』2013年8月号掲載
全国私塾情報センターでは、学習塾の関係者様を対象に、各種セミナーをご用意しております。単なる「営業のセミナー」に留まらず、「本当に知識を得られるセミナー」をご提供し、学習塾経営のサポート役を担っております。
教育関係者、または教育関係の仕事に興味を持っている方向けに業界動向、塾現場でのスキルアップ、管理職ミニ研修等、新システムのご案内、著名人による特別講演を予定しております。
初夏に開催し、多くの方々からご好評をいただいた第1期を更にグレードアップ。
日本の教育の最先端を担う皆さまに、よりよい情報とサービスをご提供致します。