文部科学省は経済的な理由などで塾に通えない子供に無料で補習を行う「地域未来塾」に対し、ICT(情報通信技術)を活用した学習支援を来年度から始める。ベネッセホールディングスやNTTといった教材開発や通信など100以上の企業・団体が所属している「ICT CONNECT21(みらいのまなび共創会議)」と連携し、どの地域からも参加できる授業の配信などを進める。家庭の経済格差は子供の学力格差につながり、ICTを使った教育で学習機会を増やし、貧困家庭の子どもの学力の底上げを図る。
NTT東日本の学習支援クラウドサービス『ひかりクラウド スマートスタディ』は、授業などの映像や資料、問題の配信ができるプラットフォームをクラウドで提供している。
その『ひかりクラウド スマートスタディ』の活用をはじめた株式会社理究の取り組みを取材した。
『ひかりクラウド スマートスタディ』(以下、スマートスタディ)は様々な機能を備え、生徒だけでなく、講師にとっても円滑で、さらにはより深い授業を可能にしている。
その機能のひとつ「ライブ」は、場所を選ばずインターネット経由で、すぐにライブ授業を展開することが可能になる機能だ。講師は、生徒のクラウド上のノートを確認し、コメントを返すことができ、生徒は資料などに自由に書き込みができる。もちろん、チャットや音声による質疑応答も可能だ。
「ビデオ」は、映像教材を生徒が自分のペースで何度でも視聴できる機能。
「ライブラリ」は、自塾が持っているテキストやプリントなどの電子データを、そのままデジタル教材として活用できる機能だ。また、「ビデオ」と連動させ、資料の詳しい解説を映像で行うことも可能になっている。
「ワーク」は、宿題や課題などをオンラインで簡単に配信できる機能。提出履歴の管理や、理解度チェックを簡単に行うことができるので、生徒の学習状況を把握しながら、フィードバックなども可能だ。
また、理解度の確認には、「テスト」も使える。この機能を使えば、テストやアンケートを簡単に作成できるだけでなく、「ビデオ」や「ライブラリ」と連動させた出題もできる。それにより、学習内容の定着化を図ることができ、生徒の理解度向上に大いに役立ってくれる。
生徒一人ひとりの専用ページ「マイページ」では、過去に受講した「ライブ」や次の授業が確認できるようになっている。「ライブ」や「ライブラリ」で保存したノートやメモも確認可能だ。
さらには、掲示板も用意されており、講師と生徒による質疑応答や、生徒同士の情報交換もできる。もちろん、講師が授業の案内や周知を生徒一人ひとりに徹底することも可能だ。
これらの便利な機能に加え、なんといっても、画面や操作がシンプルであり、わかりやすいのも特徴のひとつだろう。
神奈川県を中心に、『パレット保育園』、学童保育・幼児教室の『理英会』と『どんちゃか幼児教室』、そして学習塾の『国大Qゼミ』、国語教育の『ことばの学校』、通信制高校の『我究』などを展開している理究。同社では、このスマートスタディをどのように使っているのだろうか?
理究は、スマートスタディを導入する以前から400以上の映像教材をYouTube にアップし、『国大Qゼミ』で利用していたが、〝誰が〟〝いつ〟見たのか、などを把握できないという課題を抱えていた。スマートスタディを導入することにより、その課題は解消されることとなる。
「スマートスタディによって、誰が、いつ、どのくらい見たのか、といった状況をきめ細かく把握することができ、業務の在り方が変化しています」と、同社運営本部統括責任者の植松秀也氏は語る。
すでにある映像資産を活かすことができるため、一から作る必要がないのも大きなメリットだった。
また、映像教材の制作そのものにも変化があった。
これまでは、塾での授業の動画をそのまま一本の映像教材にしていたため、その単元ですべてを教えきらなければいけないと考えていたのだが、家庭で映像教材による反転学習をした上で、塾に来て発展的に学ぶ、ということを前提に制作するようになったことで、映像教材一本あたりの長さは従来よりも短くなり、塾での授業内容は、以前よりも絞りこんで濃いものになった。加えて、「テスト」と連動させることにより、事前に覚えてくる事柄も明確になる。
授業も、理解していることを前提にスタートするので、授業中はディスカッションやプレゼンテーションが主体となったアクティブ・ラーニング型の授業になった。
さらに、生徒の理解度に応じてもう一度映像教材を見直す「振り返り学習」を促したり、学習進度が速い生徒はどんどん先に進ませることで、アダプティブ・ラーニングを行うこともできるようになった。
これまでの一斉授業の中ではできなかった、〝個〟への対応ができるようになり、スマートな授業へと進化したのだ。
授業形態が変わっただけではない。このスマートスタディは、講師研修にも全面的に活用されている。
「これまでの集合型の研修会議は90%カットします。次年度の計画などもすべて映像化し、全員が期間内に視聴するようにしていきます」と、同社取締役の荒屋剛志氏は語る。効率よく研修がおこなえるため、講師の負担やコストの削減に繋がる。
荒屋氏は続ける。「お恥ずかしい話ですが、子供たちの能力を伸ばすという使命感ではなく、他社との差別化のためにICTを導入しなければならない、という考えに取り憑かれていました。しかし、スマートスタディに出逢い、その考えは今では180度転換されました。」
NTT東日本のサポートも大きい。導入後もユーザーの利用シーンやニーズに応えてくれる。
「ICTにひとつだけできないことは、生徒のモチベーションを喚起することです。それが我々講師の役割だと思います」と植松氏は語る。
つまり、スマートスタディを導入することによって、講師の役割は生徒のモチベーションを上げることが中心に変わっていくということでもあるのだ。
2016年1月5日、「個別指導 今塾」伊丹教室が開校した。今塾は、近畿圏で中学受験を中心に「浜学園」「Hamax」などを教室展開する浜学園グループ(兵庫県西宮市、竹森勝俊代表)と、同じく近畿圏で「第一ゼミナール」「ファロス個別指導学院」などを展開するウィザスグループ(大阪市中央区、生駒富男代表)が業務提携し、14年12月に設立した株式会社浜第一ゼミナールが運営する新しいタイプの学習塾だ。
両グループが培ってきたノウハウやメソッドを活かして、市場の変化に迅速に対応していく新しい塾として、昨年8月にHamax伊丹教室をファロス個別指導学院の伊丹駅前教室に統合し、双方の個別指導塾に通っていた生徒たちはそのまま引き継がれた。そして、ファロスの看板を掲げたまま、今塾で提供しているICTハイブリッド型のサービスを開始。同8月以降に入塾した生徒は、既に教室全体の生徒数の4割を超えたといい、学力でも早くも成果が現れている。
今塾では、小・中・高校生向けに、〝教わる〟のではなく〝学ぶ〟という学習姿勢をつくる「自己解決型個別学習」を採用している。それを実現させたのが、自己解決力の向上とICT(情報通信技術)の利便性を融合した「ICTハイブリッド型学習『I−MA(イーマ)』」である。「I−MA」とは「Innovate Motivate Academy」の略で、今塾(I−MA JUKU)の由来にもなっている。
これにより、生徒が講師に依存し過ぎることなく、映像授業を活用して自ら〝学ぶ〟という仕組みをつくった。また、受講した映像授業は自宅でも復習できるようにするなど、学ぶ場所を選ばず学習環境を提供できる仕組みも整えている。その上、ICTの活用によって、授業料も廉価に設定することができ、学習機会の損失を最小限に抑えることも今塾のコンセプトの一つになっている。
「ICTの導入により均質化した指導が実現し、個別指導塾にとって課題となっている講師の確保もクリアできます」と、株式会社浜第一ゼミナールの小林一勲(かずのり)氏は語る。
また、生徒のPDCAサイクルの確立も視野に入れており、とくに生徒たちの自己肯定感を高めることを念頭に置いている。入塾の際には、生徒の家庭での学習状況を聞きながら、どのような受講スタイルを採るか教室長と生徒・保護者が一緒に決めて、その生徒に適したカリキュラムで映像授業を受講し、学力や単元によってピンポイントに学習する必要があれば、講師が個別指導を担当する。
しかし、学習を自己解決させるためには、モチベーション(意欲)が重要になることから、教室長は学習指導に加えて、生徒一人ひとりの意欲を喚起する役割も担う。
「教室長の役割は、教務力も兼ねた意欲喚起が重要となるため、生徒や保護者との密度の高いコミュニケーションや、目先の事象にとらわれない客観性、といった総合的な人間力がポイントになると思っています。ICTを導入して利便性は上がっても、そこだけは絶対に外せません」と、株式会社浜第一ゼミナールの藤田万博(かずひろ)氏は意気込む。
今後は、3月に稲野教室(兵庫県伊丹市)と塚口教室(兵庫県尼崎市)で2校新規開校する予定で、それ以降も兵庫県南東部を中心に複数の校舎を展開する予定だ。
株式会社学研エデュケーショナル(東京・品川区、出口鯉一社長)と株式会社アーテック(大阪府八尾市、藤原悦社長)が手を組んで、この4月よりはじまるロボットプログラミング講座「もののしくみ研究室」の発表説明会が、東京と大阪で開催されることが決まった。
同講座は、昨年の日本経済新聞の記事や、私塾界が主催した「リーダーズフォーラム」でも紹介されると、全国の学習塾や学校などから多くの反響が集まっているといい、この春から導入が決定している企業も既に複数あるという。今回の説明会では、この春以降に導入を検討する企業に向け、講座の具体的な内容や、導入方法について説明する。
開催日は、1月19日(火)10:00~11:30に、東京都品川区西五反田の学研本社ビル。1月21日(木)10:00~11:30に、大阪府八尾市北亀井町のアーテック本社ビルで、それぞれおこなわれる。参加には、申込書PDFを下記よりダウンロードの上、学研エデュケーショナルにFAXする必要がある。
「もののしくみ研究室」発表説明会に関する問い合わせは、電話で03−6431−1337(学研エデュケーショナル)へ。
新しい学校の会主催の創立10周年記念シンポジウム「『日本の教育の未来を考える』~ICT教育の行方と心の教育実践~」が、11月25日、アルカディア市ヶ谷(東京都千代田区)開催された。開会に先立ち一色真司氏(同会副理事長)は、「子どもたちの置かれている背景が劇的に変わっていると思います。しかし、制度が追いついてこない。その中で今の制度で何ができるのか? また、新しい制度を求めてこの会はやっていきたいと思います」と挨拶した。
基調講演には、山口文洋氏(株式会社リクルートマーケティングスパートナーズ代表取締役社長)が登壇。山口氏は同社が提供する「受験サプリ」の概要から教育現場での活用例を挙げ、教育におけるICTの役割を語った。
「受験サプリ」は、受験科目コンテンツだけでなく、アクティブラーニング型のコンテンツも配信するなど、多岐に渡るコンテンツを擁している。そして、ビッグデータを活用し、生徒一人ひとりにあった学習プランニングを提供する。それらを活用して、「これからの先生の役割は教えるだけでなく、ファシリテーターとしての役割も担うのではないでしょうか」と山口氏は語る。
続いて、山口氏に加えて、佐藤昌宏氏(デジタルハリウッド大学大学院教授)、日野公三氏(明蓬館高等学校理事長校長)が登壇し、桃井隆良氏(同会理事長)の司会のもと、パネルディスカッションが行われた。ICTの導入が進むにつれ、教師の役割が変わると3人は口を揃える。また、「マインクラフト(ブロックなどを空中や地面に配置し、構造物を自由に作っていくゲーム)を通して、建蔽率なども学んでいる」(佐藤氏)、「教室で集団授業を受けられない発達障害の生徒に有益」(日野氏)など、ICTは発達障害の子どもたちの学習にも恩恵を与えるという意見もあった。
一方で「オンラインにも限界があり、知識学習は直に触れ合って学習した方がいい」(山口氏)と語るなど、ICTだけではない、新しい教育の在り方の必要性も語られていた。
この11月に開催された「東日本大震災調べ学習ツアー」に参加した通信制高校の生徒たちによる報告会も行われた。最後に桃井氏は、「この調べ学習が、ICTを利用することによって、時間を確保できアクティブラーニングができるという実例を話してくれたと思います」と語った。
日本最大級の中高生向けライブ学習サービス「スマホ学習塾 アオイゼミ」を運営する株式会社葵(東京・新宿区、石井貴基代表)は、11月25日、KDDI株式会社によるコーポレートベンチャーキャピタル「KDDI Open Innovation Fund」、株式会社マイナビ、株式会社電通デジタル・ホールディングス、日本政策金融公庫などを調達先として、総額2.8億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
アオイゼミは、ライブ配信の利点を活かし、受講する生徒が実際に教室にいるのと同じように、リアルタイムに講師に質問したり、ほかの生徒とコミュニケーションを図りながら学習を進めることができる。アオイゼミを受講する生徒からは、「いつでも見られる学習動画は、いつでも見ない」や、「ライブ授業は配信時間が決まっていて、全国の学生と一緒に学べるからモチベーションが上がり、習慣化できる」といった声も寄せられている。
今回の資金調達を受け、同社はさらなる経営体制の強化を図る。10月には前年同月比で200%以上の成長を果たし、平日の19時から配信されるライブ授業に、連日3000人を超える生徒が全国で受講している。この急激な生徒増に対応するため、新しい配信システムの構築や、個々の生徒に最適な学習コンテンツを薦めるレコメンド機能などを盛り込んだ学習管理システムを強化するとともに、学習コンテンツの拡充を図るため、大手予備校で指導経験のある人気プロ講師の採用を進めながら、新規科目の開講やコンテンツ数を増やす。
また、今回の資金調達にともない、葵に出資するKDDI株式会社の運営するコーポレートベンチャーキャピタルおよび、事業会社の株式会社マイナビとはそれぞれ、「auスマートパス」や「マイナビ進学」と連携して、双方のサービス向上のための相乗効果を狙う。