学習塾ボランタリーチェーン 塾エイド 代表 鴨志田 順さん
一つの塾では実現不可能な経営環境を実現したい
中小の個人塾が支える地域教育。 だからこそ、なくしてはいけない。 独立独歩になりがちな個人塾も 繋がり合えば大きな力となる。 一人ではできないことも、一緒なら。 ボランタリーチェーンという 塾運営の新しいコミュニティを求めて
自分で教えることばかりが教育的貢献の正解とは限らない
塾、特に個人塾の経営者は「子どもたちに何かを教えたい」という思いが強いものだ。若い社員や講師がいる中でも、いまだ自ら授業を受け持っている塾長は多いだろう。
もちろん、それは悪いことではない。それだけ、子どもたちや教育に対する情熱を抱き続けている証左だ。
一方で、必ずしもそればかりが正解なわけでもない。そういう〝心ある〟塾長を支援していくこともまた、間接的に子どもたちの教育に資することになるからだ。しかも、そうした支援の対象が多ければ多いほど、貢献の範囲は広がるだろう。一人(個人塾)では成し遂げられない教育も、みんなが集まって協力すればできることがある。そんな活動を行っているのが鴨志田順と、彼が運営する学習塾ボランタリーチェーン(VC)の「塾エイド」だ。
VCとは、共通の目的を持った事業体が、それぞれ独立した立場のまま連携するチェーン組織を指す。つまり互助組織のような形で、ノウハウやコンテンツを共有したり、スケールメリットを生み出したりする横の繋がりだ。
コロナ禍で気付いた相談できる仲間のいない不安
鴨志田は、もともと教育とは無関係な環境で生きてきた。「中学くらいからちょっと道を踏み外し始めて……」と、申し訳なさそうに苦笑いする。中高とほとんど勉強もせず、塾にも通ったことはない。高校卒業後は鳶職となり、その後は営業職、建築設計事務所などを渡り歩いた。
そんな鴨志田だったが、我が子が生まれたことで教育に関心を持ち始める。そこで、まったく未経験の状態から塾経営に乗り出した。勉強法も進路のこともほとんど分からなかったが、それでも「大切な子どもを預けてくれた」という責任感だけでがむしゃらに取り組み、知識や技術は走りながら身に付けていった。
それが認められたのか次第に生徒も増え、順調な経営ができていたが、そんな矢先に訪れたのがコロナ禍だ。とにかく何をどうすればいいのか分からない。何より不安に感じたのは、こんなときに相談したり、協力できたりする経営者仲間がいないことだった。それはおそらく、全国で地域に密着しながら細々と頑張っている他の個人塾も同じだったろう。その苦労と問題意識が、塾エイド設立の原点になっている。
そこで始めは、営業職などの経験を活かして、販促や生徒募集などプロモーション系のセミナーを開催。同じように困っている個人塾の経営者らに情報提供しつつ、一緒に悩み、戦える仲間を募っていったのだ。やがてリサーチ情報や事務サポート、教室オペレーションのシステム化など、総合的なコンサルティングなども請け負いながら少しずつ協賛者を増やしていった。やはり潜在的ニーズは高かったのだろう、現在の会員数は約1100にも達している。
規模は小さくとも思いのある塾人が塾経営を続けられる世界に
こうして塾エイドを運営するうち、あることに気付いたと言う鴨志田。「塾の先生って、やっぱり教えることが大好きで、思いを持ってやってらっしゃるんですよ。だからこそ、そこにより集中してもらうためにも、それ以外のことはもっと効率的にできたほうがいい。地域の中小塾が支える教育的貢献って計り知れないと思うんです。でも、大手さんのように資本もノウハウもない状態では、やがて立ち行かなくなります。だからこそ、VCで『思いのある人が、塾経営を続けられる』業界にしたいなと」。
塾エイドのHPには「一塾では実現不可能な経営環境を実現する」と理念が掲げられている。
自分自身は、そんなに「教育者然」とした人間ではないと語る鴨志田。しかし、そんなことはない。教壇に立ち、子どもたちに何かを教えるばかりが「教育」ではないのだから。教育の最前線に立つ者を支え、サポートする者もまた、間違いなく立派な教育者であるはずだ。(敬称略)
塾エイド▶https://jukuaid.com/