九州大学大学文書館は、日本の科学技術論を牽引し、原子力政策にも深くかかわった故・吉岡斉氏が所蔵していた図書と紙の文書類、電子ファイルからなる資料群「吉岡斉資料」を保管している。図書については、既に目録を作成し公開しているが、その他の紙の文書類と電子ファイルについても現在整理作業を進め、2024年秋をめどに公開を開始する。(予定)
吉岡氏が2018年に逝去された後、所蔵していた図書・文書等は一度早稲田大学の綾部広則教授と下関市立大学の川野祐二教授が引き取り、仮整理と紙の文書類のPDF化が行われた。その後、2020年に九州大学大学文書館が寄贈を受け、同年より九州大学社会運動資料研究会を立ち上げた。十数名のボランティアと大学文書館職員によって資料目録の作成作業が開始され、図書については2022年に目録が完成した。書庫を完備し、「吉岡斉科学技術史文庫」としてすでに公開している(閲覧のみ、貸出・複写は不可)。文書類については、2024年度前半までに目録作成を完了させ、秋をめどに資料全体の公開を開始する予定。
吉岡氏は日本の科学技術論の牽引者であり、その研究にかかわる資料が残されていることで、吉岡氏の科学技術論研究がどのように形成されてきたかを跡づけることが可能となる。このことは、吉岡資料が学問分野としての戦後の科学技術論の発展過程を明らかにする上で欠かすことのできない第一級の資料であることを示している。日本の学術史の一分野にとって極めて貴重な資料であることが、「吉岡資料」の意義の1つ。また、吉岡氏は日本のエネルギー政策、特に原子力政策に大きくかかわったため、原子力利用推進派と反対派双方の資料が数多く残されている。吉岡氏は安全性やコストの面から原子力利用に批判的であったため、吉岡氏の旧蔵資料、とりわけ政府の各種会議資料中に見られる批判的な書き込みは、今後の脱原発運動にとって示唆に富むものであると考えられる。一方、原発推進側にとっても、吉岡氏の批判を受け止め、これに応えることで、原発推進に説得力を持たせることができるため、学べることが多いと期待される。
今後の原子力政策を考える上で、非常に重要な内容を含んでいることが、「吉岡資料」の大きな意義であると考えられる。「吉岡資料」を一般公開することにより、日本の科学技術論や原子力政策の研究が飛躍的に進むとともに、今後のエネルギー政策に資することが期待される。