松尾研究所、「IoT × GenAI Lab」の研究成果に関する論文が「BuildSys 2024」にて採択

 株式会社松尾研究所は、三菱電機とソラコム・松尾研究所「IoT × GenAI Lab」の取り組みの研究成果に関する論文が、エネルギー応用分野で世界最高峰の国際会議である「ACM BuildSys2024」に採択され、中国杭州にて成果発表をした。
論文は、以下URLから参照可能。
Office-in-the-Loop for Building HVAC Control with Multimodal Foundation Models | Proceedings of the 11th ACM International Conference on Systems for Energy-Efficient Buildings, Cities, and Transportation
https://dl.acm.org/doi/10.1145/3671127.3698182


 近年、大規模言語モデル (LLM) をはじめとする生成AIの技術革新が目覚ましく、その応用範囲は急速に拡大している。特に、テキスト、画像、音声、動画など、多様なモダリティを扱うマルチモーダル基盤モデル (MFM) の登場により、生成AIはロボット工学、ヘルスケア、教育、ビジネスなど、多岐にわたる分野で活用され始めている。
 この研究では、この生成AIの潜在能力に着目し、三菱電機、ソラコム、松尾研究所の3社のシナジーを生み出せる領域として、オフィス環境におけるHVAC(空調制御)システムの最適化に適用する「Office-in-the-Loop」システムを提案した。論文タイトルでもある「Office-in-the-Loop」には、人中心型AI制御(Human-in-the-Loop)を超えたオフィス環境も含めた最適制御という意味合いが込められている。

 従来のHVACシステムは、主に人間のフィードバックに基づいて快適性を向上させるか、カメラを用いて服装を分析し、快適性を予測する制御学習技術に依存していた。しかし、これらのアプローチは、個々の快適性に対する主観的な好みの違いや、監視カメラの使用に伴うプライバシーの問題など、いくつかの課題を抱えていた。近年では、LLMの汎化能力を活用した産業機器制御の可能性が検討されており、シミュレーション環境でのHVAC制御において、LLMが強化学習アプローチに匹敵する性能を達成することが示されている。 しかし、これらの研究はシミュレーションに限定されており、現実世界の複雑さを考慮していないという問題があった。

論文の概要
 この研究では、マルチモーダル生成AIを活用したHVACシステムを、実際のオフィス環境に実装・評価することで、シミュレーションベースのLLM応用と現実世界のHVAC制御のギャップを埋めることを目指した。具体的には、オフィスの既設のIoセンサとソラコムの提供するIoTセンサを組み合わせ、室内外の温度、照度、天井レイアウト、従業員の居場所などの環境データをリアルタイムに収集し、従業員から熱的快適性に関するフィードバックを得た。

 これらのデータと過去の環境データ、フィードバック情報は、生成AIモデルのプロンプトとして使用され、現在および過去の環境条件と人間の快適性フィードバックを考慮した、1日の各時間帯における最適なHVAC設定温度を予測した。
 このシステムの性能は、生成AIモデルの制御下におけるHVACシステムの電力消費量と、ベースラインシステムの電力消費量を長期間にわたって比較することで評価した。その結果、ベースラインと比較して、電力消費量が最大47.92%削減され、従業員の快適性が最大26.36%向上することが実証された。

今後
 この研究では、2時間間隔でユーザーフィードバックを収集する必要があるという運用の課題と、限られた環境での実証試験にとどまっているという問題がある。今後は、行動分析による快適性フィードバックの自動化や、データセンターや工場などの大規模施設へのシステム拡張など、さらなる研究を進める予定だ。研究の成果は、生成AIがエネルギー効率と快適性の両立を実現する、次世代のHVACシステムの開発に大きく貢献するものと期待されている。

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