半導体受託生産最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が来年、熊本県菊陽町で新工場を開所するなど、九州では半導体産業が盛り上がり、大きな経済効果が見込まれている。こうした中、福岡工業大学は台湾で初の「半導体学部」を持つ、世界最先端クラスの半導体人材の教育機関、明新科技大学と連携に向けた覚書を締結した。
九州では来年、TSMCの第一工場が本格稼働、第二工場の建設も予定されている。こうした中で特に今後の需要増を受けた半導体産業にかかわる人材の不足が予測されていて、人材の育成は九州の大学にとって重要な課題になっている。福岡工業大学は今後、明新科技大学との間で学生・教員の人材交流を進めながら、半導体技術を本場で学ぶグローバル人材を育て、九州の半導体産業の中核となるべき人材を育てていく。
台湾明新科技大学は台湾北部にあり、多くの半導体のトップ企業が入居する台湾のシリコンバレー、「新竹サイエンスパーク」近くにあり、2021年に台湾初の「半導体学部」を設立。同大は特に半導体の製造工程で「後工程」と呼ばれる組み立てや試験・検査に特化した人材を育てており、学内には台湾政府や企業から支援を受けて、実際に企業が使用するものと同じ最先端の半導体製造ラインも備えている。また、半導体製造にかかわるエンジニアのライセンスである「半導体検測工程鑑定士」の試験を台湾政府や企業とともに実施するなど本格的に半導体に特化した人材育成を行っている。連携する世界的な半導体メーカー「Powertech Technology Inc.」では従業員の10%(管理職の5%)が明新科技大学の卒業生であることなど、企業とのコネクションも非常に強い大学だ。
■加熱する半導体業界の「人材獲得」競争
TSMCをはじめ、世界的な半導体メーカーや関連産業が相次いで九州に設備投資を進める中、特に課題となっているのが人材の獲得だ。半導体や関連産業に関わる人材育成などを目指す産官学組織「九州半導体人材育成等コンソーシアム」によると、九州の半導体産業における人材不足は、※今後10年間で毎年1,000人程度になると見込まれ、特に生産技術職にかかわる人員は不足感が大きくなると予想されている。福工大は今後明新科技大学との間で交換留学などの制度を作っていき、半導体の本場で学んだ技術を九州の生産現場で生かすことができる中核人材を育てていく。
※https://www.kyushu.meti.go.jp/seisaku/jyoho/oshirase/230727_1.html
日本に進出する台湾の半導体メーカーおよび関連企業においても、人材確保は重要な課題になっている。特に、台湾の大学で学んだ学生は国内での就職を望む傾向が強く、日本で活躍する人材の不足感は台湾メーカーでより強くなっている。このため、メーカーからのニーズを受けて、明新科技大学でも日本からの留学生を同大学で受け入れて育てる必要性が高まっており、現在日本からの留学生を受け入れる新たなプログラムを検討中である。同大の教育制度を利用している日本の大学は現時点ではまだなく、福岡工業大学は今後同校と協議を進めながら台湾企業でのインターンシップなどを含む新しい教育カリキュラムの構築などを進めていきたい考えだ。
覚書のポイント
福岡工業大学と明新科技大学は、相互の文化・教育・技術交流を促進するため、
・学生や教職員および研究者などの相互交流を進めること
・両校の研究者の共同研究への参加、コラボレーションを進めること
・両校が関心を寄せる項目についての情報交換や関連する出版物の発行を進めること ・・・などを明記
今後両校の間で学生の交換留学プログラムや学科ごとに協力した単位交換制度などについて検討・整備を進めていき、具体的な内容についての書面をまとめていく予定。