2023年3月29日~31日の3日間、ロンドンで開催された“BETT 2023”(British Educational Training and Technology Show)は、3年ぶりのオフライン開催ということもあり、100以上の国々から3万人以上の来場者が集まり、大変な盛り上がりを見せた。世界最大のEdTech展示会にふさわしく、600以上の革新的なEdTech企業がブースを構え、7,000以上のConnect@Bettという小会議が開催された。BETT2023を通して見えてきたEdTechの大きな三つのトレンドについてレポートする。
ChatGPTはじめ生成AI
BETT2023が開催された3月末は、イーロン・マスク氏がAI(人工知能)システム開発の一時停止を提言した時期や、イタリアがChatGPTへのアクセスを一時停止していた時期と重なっていたこともあり、欧米諸国で生成AIに対への対応がやや慎重になっている雰囲気を感じた。筆者は、多くのブースで「ChatGPTをどう製品に組み込む予定か」と聞いて回ったが、ほとんどの企業は「現在模索中だ」「もう少しルールが整備されないと分からない」というものだった。
ただ、オックスフォード大学 Assistive Technology Officer(支援技術責任者)のDominik Lukesの“How to Teach and Learn with ChatGPT”という講演は、超満員に膨れ上がるなど参加者の関心の高さは実感した。また、プログラミング教育用の教材や生徒管理ツールにChatGPTを組み込むなど、既に新しいチャレンジを開始しているスタートアップもいくつか見受けられた。
“地に足のついた” EdTechの王道
技術的には、日本やアジアの展示会でも見かけたことのあるツールが多く、目新しいものはあまりなかったが、それらを使いこなすためのデザインや教師側の教育設計に力を入れているプロダクトが多かったのが印象的だった。端的に言えば、“地に足のついた”とも言える。うわべだけでなく、使い込まれることで、教育の質を向上させるツール開発に注力しているようだった。具体的には、学習管理プラットフォームや、バーチャルリアリティ(VR)を用いた没入型の教育体験ツールなどがそれにあたる。こういったツールは、教育現場で即座に活用でき、かつ効果を実証されている技術であり、伝統色の強いヨーロッパの教育と最新の教育テクノロジーの融合が成せる業だと感じられた。
アジア圏からの出展も多数
今回の展示会では、韓国やインドなど、アジア圏からも多くの出展があり、ヨーロッパをはじめ全世界にEdTechサービスを広げていこうとする野心的なチャンレンジを目の当たりにした。しかし、日本からの出展は1社のみで、残念ながら海外進出という文脈では遅れをとってしまっている現実を肌で感じざるをえなかった。一方で、クオリティは既存の日本のEdTechサービスも十分に優れていることを確信できたことも事実で、グローバル展開ができるサービスが現れることを切に期待している。
BETT2023は、AIやVRなどの最新技術から、具体的な教育現場のニーズに対応する基本的なソリューションまで、EdTechの全領域を網羅した展示会でした。その中に、地域を越えた普遍的な教育の価値と、ローカライズされた具体的なサービスの多様性が同居する教育の“おもしろさ”を見つけ出すことができ、多くの学びを得られる視察となった。
余談だが、筆者にとっては今回が初のヨーロッパでの展示会視察となった。その中で最も印象的だったのが、午後になると各ブースでワインやビールなどお酒が振る舞われたことだ。アルコールが入り、ベンダー側も教育者側も、心理的な壁を取り払い、本音で商談できている様子だったので、お酒が好きな人にとっては、大変有効なシステムだと感じた。日本でもこの商談システムを採用した展示会が開催される日が来ることを望んでいる。