独立行政法人国立科学博物館(林 良博 館長)は、所蔵する「科学者資料」(科学者のノート、原稿、書簡、写真など)のうち、日本で最初の植物学教授であった矢田部良吉の資料をデジタル化して登録したIIIFデータセットと、それを活用した電子展示の二つで構成される「矢田部良吉デジタルアーカイブ」を公開した。
矢田部良吉資料には、明治初期の植物採集記録や、精緻な標本画の原画、女子教育についての考えを述べた原稿など、科学と教育の歴史を証言する貴重な資料が多数含まれます。今回のデジタルアーカイブによって、これらの資料へのアクセスがいっそう容易になる。同時に、個々の資料情報だけでは分からない、資料を読み解いて得られる科学者の物語も、専門研究者の視点から垣間見ることができる。
矢田部良吉(1851年生まれ、1899年没)は、東京大学の初代植物学教授や、国立科学博物館(以下、科博)の前身である教育博物館の初代館長などを務めた人物であり、日本の近代植物学や高等教育に貢献しただけでなく、科博とも縁の深い科学者。今回、矢田部本人に由来するノートや原稿、書簡など約300点をデジタル化し、その画像と資料データを、国際標準規格であるIIIFの定める形式で公開しました。さらに、このデータをもとにして、矢田部の生涯を紹介する電子展示も制作した。
IIIFとは、International Image Interoperability Frameworkの略称で、さまざまな資料保存機関が公開するインターネット上の画像を共通の方法で閲覧・利用可能にするといった国際的なコミュニティ活動をおこなっている。画像へのアクセス方法の標準化や、画像を束ねた資料構造などの標準化を進めている。
国立科学博物館では、これまでも多様な科学者資料を収集・保管・研究・展示してきた。その成果の一端は「標本・資料統合データベース」(http://db.kahaku.go.jp/webmuseum/)から閲覧できる。
公開するデジタルアーカイブは、矢田部良吉資料をIIIFの定める形式に整理した科博IIIFデータセット(https://iiif.kahaku.go.jp/list/)と、それを用いて制作された電子展示「文明開化の科学者・矢田部良吉の生涯」(https://dex.kahaku.go.jp/yatabe/)で構成される。この二つは、個々の資料の画像と情報をユーザーが広く利用可能な形式で提供する一方で、それらの中からピックアップした資料を意味のある順序で並べ、専門家の解説とともに閲覧できる仕組みを提供する。これによって、資料を解釈する入り口としての展示と、その後の利用のためのデータセットの両方を、幅広く活用できる。