スマイルアシスト(栃木県)塾と親が手を取り合って みんなで育てる、心の〝共育〟を|疾風の如く|2016年2月号

人とは少し違う道を歩いてきた。
だからこそ、見えることもある。
勉強だけできても人は育たない。
心を育てて、人を育てる――
元・キャリア自衛官が抱いた
教育の理想とその挑戦。

スマイルアシスト(栃木県)

塾長 黒木 久美子さん

女子大生は、キャリア自衛官へ

黒木 久美子さん

「えっ、本当にウチでいいの!?」。採用担当者は、立場も忘れてそう尋ねた。それも無理はないだろう。その就活生は、なんとキリスト教系女子大の学生。同窓生の多くが銀行員や保育士として就職するなか、ここ・防衛省の門を叩いていた。しかも、各都道府県でたった一人しか採用されないと言われる裁判所勤務の内定を蹴って。まさに異色中の異色と言っていいだろう。
もちろん、防衛省だってエリートコースだが、いわゆるキャリア自衛官の道だ。精神的・体力的にも厳しく、男社会。職責も特殊である。
しかし、本人に迷いはない。当時はPKO活動が話題になりはじめたころで、「人を助けて、しかもそれが仕事になるなんて素晴らしい」と思っていた。自分の信念にまっすぐで、自他共に認める負けず嫌い。黒木久美子とはそういう女性であり、だからこそいま、塾をやっている。

教育を思うからこそ、教育から離れよう

実はもともと、教育への関心は強かった黒木。大学では教育実習も経験、生徒から慕われる人気の先生だった。「ああ、先生の仕事っていいな」。素直に、そう思ったという。
しかし、だからこそ彼女は教員の道へ進むのをやめた。「たかだか二〇年そこそこしか生きていない小娘が『先生』なんて呼ばれ、こんな狭い経験と視野で子供に何を伝えられるのか」と、採用試験を目の前に踵を返した。「一度、一般社会で揉まれ、それでも先生になりたいと思えたら挑戦しよう」と考えたのだ。
防衛省では暗号部隊へ。「相当やられましたね」と彼女は笑うが、そこは、予想通り厳しい世界だった。自衛官にとって〝現場〟とは戦地であり、自分一人のミスで部隊が全滅することもある。ここで仲間を思いやり、大事にする価値観を徹底的に鍛えられた。同時に上官として「人を育てる」ことの楽しさも再認識していた。
その後は順調なキャリアパスを重ねながらやがて結婚し、娘も産まれたが、それが転機に。女性が子育てしながら自衛官を務めるのは職務上かなり難しく、駐屯地内に保育所機能を持たせる意見具申をするなど奔走したが、物理的な壁もあり難しかった。
結果、ここでも彼女らしさを発揮する。次のあてもないまま退省したのだ。当然、周りは全力で慰留した。「なぜ安定を捨てるのか」「このままいけば勝ち組なのに」と。しかし彼女にとって、家族をないがしろにして得る将来など、決して勝ち組とは呼べなかったのだ。

個性心理学を活かし『三位一体』の塾を

笑顔が印象的な黒木さんだが、生徒と向き合うときは真剣そのもの

退省後は、地元・福島の有名企業へ。しかしそこは完全な個人主義の会社で、人材を育てようとしない。「隣のデスクにいるのは、仲間ではなく敵」というありさまで、勉強だけできて一流企業に入ってもこれでは…… という思いを強くした。
それが反面教師になったのか、学生時代のあの想いが頭をもたげる。「やっぱり、教育をやりたい。人を育てる塾を創りたい!」。
そうして着々と起業準備を進めるさなかだった。〝あの日〟が訪れたのは。―― 3・11。自宅は半壊、原発の不安もあった。開業どころか、生活もままならない状況に意を決し、娘を連れ栃木へと移住、そこで晴れて塾を開いた。
これまでの経験から、胸にあった想いは一つ。「まずは子供の自尊心を育てたい」。だが当初は、それがなかなか理解してもらえない。保護者が求めるのは「とにかく成績さえ上がればいい」ばかりで、まずはここを変えねばならなかった。
そこで個性心理学を学び、その子の個性や才能に即して指導を使い分ける手法を取り入れた。さらに親をも巻き込み、親身に相談に乗りながら協力して子供らを育てる『三位一体』『親子共学』の教育も実践。実は親自身も、子育てに多くの悩みを抱えていたのだ。その取り組みはみるみる地域に浸透し、いまや押しも押されもせぬ人気塾だ。
「うちから世界に羽ばたく子を育てたいんです」(黒木)と理想は高い。自らが異色のキャリアを歩んできたからこそ、伝えられることがきっとある。(敬称略)文/松見敬彦

黒木 久美子 KUMIKO KUROKI

福島市出身。防衛省・民間企業を経て、震災後は栃木県小山市に移住。一度は福島での開業を諦めた学習塾を立ち上げ、「教育を通して世界中の子どもたちを笑顔にする」という志を基に、その子の個性を明らかにすることで才能を伸ばす教育を実践中。また、母子のストレス軽減・学習環境改善に取り組む「個育てマム」を主宰するほか、DAREDEMO HERO日本支部関東統括長として、フィリピンの貧困層の子供たちの教育支援、小山市の国際交流会おいふぁの理事も務める。

●WEBサイト
http://www.smile-assist.net/

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