教育バウチャー。学費等、用途を学校教育に限定したクーポンを行政などが支給する制度のことで、家庭の経済格差が教育機会格差に繋がる現状打破への一助として期待されている。中でも大阪市が中学生を対象に平成24年度より実施する「塾代助成事業」は、その名のとおり学校ではなく塾などの学外教育に利用できることで注目を集めた。
しかし、課題も残る。助成は月額1万円を上限としており、中学生の平均塾代月額2~3万円という実質と見合っていないことだ。利用者アンケートの結果からも、約半数の49.4%が助成金の増額を望んでいる。また、いわゆる塾の形式をとる「教室型」、家庭教師などの「訪問型」に用途が限られていたこともネックに。そのせいか、せっかくの制度も利用率は40%程度にとどまっていた。
こうした現状をふまえ大阪市は、10月より「ネット型」事業者にもその門戸を広げることを決定。株式会社葵(代表取締役社長・石井貴基氏)が提供するオンライン学習塾『アオイゼミ』が、その対象事業者として採択された。アオイゼミは、あらかじめ録画された授業映像を視聴する従来の映像教材と異なり、ネットを介したライブ「授業」を自宅で受講できることが最大の特徴。質疑応答もリアルタイムに行え、シェアできる双方向性も画期的だ。受講は原則無料、様々なオプションが利用可能な「プレミアムプラン」を受講しても月額3500円~であり、市が助成する1万円の範囲内となる。すなわち実質上の無料受講が可能だ。吉村洋文大阪市長も定例会見で、利用者拡大に期待したいとコメントを寄せた。
今回の採択の意義を代表の石井氏はこう語る。「オンライン指導も、立派な『塾』であると認められたことが大きい。また、弊社のような新興ベンチャーでもこうした公的教育支援の場に参画できると証明できた。教育ICTの分野や学習塾の社会認知においても、何らかの貢献になれば嬉しい」。
もともと同社と石井氏は「教育格差の是正」を理念に創業。教育費負担が重くのしかかり、機会損失を被るいっぽうの一般家庭やその子供たちを何とかしたいという強い想いから生まれた。「住宅でも保険でも、収入に合わせた商品が提供されているのに、なぜ教育だけ画一された料金なのか。それが格差の原因ではないか。もっと選択肢があっても良いのでは」(石井氏)という疑問を抱いたのが始まりだという。
同社の想いは、教育バウチャーひいては教育格差解決への風穴を開けるか。